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DIAMOND online
岸博幸のクリエイティブ国富論
何が米国の若者をリスク回避志向に追いやったのか
ネットがもたらすもう1つの“負の現実”
(1)h)ttp://diamond.jp/articles/-/16620

米国の新聞を読んでいたら非常に興味深い記事を発見しました。日本では「若者が弱くなった、内向きになった」と言われるようになって久しいですが、独立精神が旺盛で住む場所が移り変わることも厭わない国民性のはずの米国でも同じようなことが起きているのです。しかも、その原因の1つがネットであるかもしれないのです。

生まれ育った地域を離れたがらない

米国の若者に起きた変化

 その記事によると、過去30年の間に米国人、特に米国の若者がリスクを回避し、自分の生まれ育った地域に居続けるようになったそうです。

 米国の国勢調査局のデータによると、20代の若者が今住んでいるところから他の州に移住する割合は、1980年代からの約30年で40%以上も低下したとのこと。大卒の若者でも、学歴のない若者でも同様の傾向のようです。

 Pew Research Centerの分析でも、米国人の若い世代(young adult)のうち実家に住み続ける人の割合は1980年から2008年で倍に増加しているとのことです。

 また、ミシガン大学の交通研究所(Transportation Research Institute)の調査によると、1980年代初期には米国の18歳の若者の80%が自動車免許を取ったのに、2008円にはその割合が65%にまで下がってしまいました。ついでに言えば、米国での自転車の売上も、今は2000年より低下しています。

 即ち、米国の若者は生まれ育ったところから動かなくなっているのです。ハーバード大学世論調査を研究している政治研究所(Institute of Politics)では毎年数千人の若者のサーベイを行っていますが、例えばネバダ州の失業率が13%であるのに対して隣のノースダコタ州は3.3%なのに、ネバダ州の若者は隣の州に移住したがらないなど、そこでも若者が生まれた故郷から動きたがらない傾向が明確に出ているようです。

(2)h)ttp://diamond.jp/articles/-/16620?page=2
ネットが原因?

 このような話を聞くと、米国もリーマンショックで景気が一気に悪くなったので、若者もその影響を受けていると思われるかもしれません。しかし、2008年というのはリーマンショックが起きる前です。即ち、経済的な要因以外が原因で、米国の若者の行動が変化し出したと考えるべきなのです。

 この記事では、ネットが若者の行動に大きな影響を与えているのではないかと推測しています。若者は、家でフェイスブックなどのソーシャルメディアにアクセスして、それで満足してしまっているのかもしれないのです。

 そう言われると、思わず日本のネット・オタクを想起してしまいますが、例えばミシガン大学の交通研究所の教授が行った調査によると、ネットに多くの時間を費やす若者ほど自動車免許を取るのが遅くなる傾向が出ているようです。

 そして、リーマンショックとその後の景気低迷が、ネットによって生じている若者の行動変化を一層助長している面があると考えられます。

 例えばUCLAの調査によると、景気後退期に育った若者は起業家精神が少なく、実家に留まり続ける傾向があるようです。その理由は、努力よりも運(luck)が大事と考えるようになるからであり、実際に、景気悪化は人の考えの中で運に依存する割合を20%高めるそうです。

日本の若者は
もっと危機的状況にある

 翻って日本の若者はどうでしょう。日本の若者が「弱くなった、内向きになった」と言われて久しいですし、私も大学で教えていてそれを実感することが多いと言わざるを得ません。

 その原因は何でしょうか。米国と同様にネットの影響と景気悪化はもちろんですが、それに加え、ゆとり教育の影響も大きいはずです。

(3)h)ttp://diamond.jp/articles/-/16620?page=3
 即ち、米国ではまずネットの普及の影響で若者が内向きになり、景気悪化がそれを助長しているとしたら、日本の場合は、まずゆとり教育と15年にわたるデフレで若者が弱く内向きになったところに、ネットの普及が追い打ちをかけたという因果関係になるのかもしれません。

 だとしたら、ゆとり教育は既にある程度是正され、また政府は常に景気を良くしようとしていることを考えると、今後はそれに加え、ネットの負の影響にどう対処するかについても考えていく必要があるのではないでしょうか。

 件の米国の記事を読んでいて「なるほど!」と思ったのですが、米国を代表するロック・シンガーであるブルース・スプリングスティーンが1970年代に発表し大ヒットしたアルバムのタイトルは“Born to Run”でしたが、1995年に発表したアルバムのタイトルは“The Ghost of Tom Joad”でした。Tom Joadとは、1939年にスタインベックが発表した名作「怒れる葡萄」の主人公であり、この小説の中ではオクラホマからカリフォルニアに移住をしています。このタイトルの変遷が米国の若者の気質の変化を如実に示しているのかもしれません。

 しかし、日本の状況は米国よりも更に危機的です。それは、昨年末に内閣府が発表した自殺対策白書からも明らかです。この白書によると、日本の20代の若者の死の半数は自殺によるものなのです。こんな国は世界中で日本くらいです。若者が弱く内向きになったことに加え、日本の若者が夢や希望を持てる社会ではなくなった証左です。

 もちろん私も妙案がある訳ではありませんが、政府が正しい経済政策で早くデフレを克服して成長率を引き上げる、社会保障制度や雇用面などでの高齢者優遇を早く是正する、といった当たり前の政策対応を行うと同時に、ネットの負の影響についても社会全体で考える必要があるのではないでしょうか。