98457463120936

ロイター 2012年01月27日 6:00 pm JST
日英の政権交代、違いは基礎部分
投稿者 吉池威
http://blogs.jp.reuters.com/blog/2012/01/27/%E6%97%A5%E8%8B%B1%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%A8%A9%E4%BA%A4%E4%BB%A3%E3%80%81%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%AF%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E9%83%A8%E5%88%86/
選挙による政権交代劇をこれまで3度見た。1度目と3度目は国内、2度目は海外である。
最初は1993年8月。宮澤内閣への不信任決議案が可決され、細川内閣が発足。これに先立ち、衆院議長に社会党土井たか子委員長(当時)が就任。議長席から深々と一礼した瞬間には、記者席からも拍手が沸き起こったのを記憶している。
日本新党の控室前で首班指名直前の細川護熙氏を待ち構えていると、見覚えのある若手議員が控室から出てきて、どこかに走り去った。新党さきがけに所属していた後の首相、鳩山由紀夫氏だ。
その次は日本でなく英国だ。1997年5月、英仏海峡トンネルの経営問題に関する取材で、たまたまロンドンに滞在していた際に「ニューレーバー」を掲げた労働党がブレアを擁し18年も続いたサッチャー・メージャーの保守党政権を破ったのを見た。地元テレビでは祝賀ムードに沸くフェスティバル・ホールの模様を朝まで中継していた。まさに歴史の節目という雰囲気だった。
3度目の2009年8月の総選挙は2大政党が争う英国型の選挙として注目された。安倍、福田と政権を途中で放り出すひ弱さから有権者に自公体制は嫌気され、その後リーマン・ショックのあおりもあって自民党に勝利し、衆院第一党となった。「マーケットは自公からの変化を求めていたので民主党に期待した」と岡三オンライン証券チーフストラテジストの伊藤嘉洋氏は当時を振り返る。
しかし、この選挙で民主党が掲げたマニフェストには実行できないものが多く、国民の期待は失望に変わっていった。2年半弱の民主党を中心とする政権ですでに3人目となった野田佳彦首相は、財政再建論議で消費税引き上げ路線が鮮明になるにつれ支持率を下げ、国内メディアの調査ではおおむね40%を割り込んでいる。
英国にはダグラス=ヒューム規則という政権移行をスムーズに行うために設けられたルールがある。野党議員と各省庁の幹部は原則的に接触できないことになっているが、この規則により下院の任期満了16か月前から、政権移行のための協議を行うことができる。日本ではそのような制度はなく、野党議員でもある程度自由に情報を得られるようになっているという。
にもかかわらず、野党時代の民主党は自前の政策にこだわり官僚に頼らないでマニフェストを作成し、2009年の総選挙に挑んだ。「脱・官僚」を党是とし政策で有権者を引き付けたかったのだろうが、それならなおさら官僚から事前に情報を得て、実行可能性などを見極めたうえでマニフェストを取りまとめられれば政権運営はここまで行き詰らなかったのではないか。
(写真/ロイター)ロイター

50986752173251

毎日新聞
この国と原発:第4部・抜け出せない構図/6止(その1) マグロの町、青森・大間に「フルMOX」
毎日新聞 2012年01月28日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120128ddm001040131000c.html


 ◇世界初、進む建設
 今月5日、東京・築地市場の初競りで1本5649万円の最高値をつけて話題になった「大間マグロ」。青森県大間町は「マグロの町」として脚光を浴びているが、世界でも例のない原発の建設が進んでいることは問題視されてこなかった。
 Jパワー(電源開発、本社・東京都中央区)が08年から建設中の大間原発は、炉心の燃料を通常のウラン燃料ではなく、全てMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料にする予定だ。「フルMOX」と呼ばれ、商業用軽水炉では世界初。出力138万3000キロワットは国内最大となる。そして、国策・核燃料サイクルの一翼を担う。
 MOX燃料を軽水炉で使った場合、ウラン燃料に比べて制御棒の利きが悪くなる。また、使用済みのMOX燃料は発熱量や放射線量が高く、高レベル放射性廃棄物も大量に出る。処理方法も決まっておらず、プルトニウム自体の毒性も強い。
 10年7月には、大間町の対岸18キロにある北海道函館市の住民が原子炉設置許可取り消しを求めて提訴した。訴状で住民は訴える。「実験炉−実証炉などの段階を踏まず、即商業炉でフルMOXを実施するのは技術的に拙速で重大な危険性がある」
 そして、この「初めて」づくしの原発を担うJパワーにとって、原発保有は初めてだ。
 大間原発の歴史は76年4月、町商工会が町議会に原発の立地調査を請願したことから始まる。当時はマグロの不漁期だった。「経済的な不安が背景にあった」と、当時から反対運動を続けてきた同町の元郵便局員、奥本征雄さん(66)は言う。
 だが、マグロは戻ってきた。奥本さんは、無念そうに話す。「今のように取れていれば、原発の誘致はなかった」

45098478432190

この国と原発:第4部・抜け出せない構図/6止(その1) マグロの町、青森・大間に「フルMOX」
毎日新聞 2012年01月28日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120128ddm001040131000c.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120128ddm001040131000c2.html

(1)
◇世界初、進む建設

 今月5日、東京・築地市場の初競りで1本5649万円の最高値をつけて話題になった「大間マグロ」。青森県大間町は「マグロの町」として脚光を浴びているが、世界でも例のない原発の建設が進んでいることは問題視されてこなかった。

 Jパワー(電源開発、本社・東京都中央区)が08年から建設中の大間原発は、炉心の燃料を通常のウラン燃料ではなく、全てMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料にする予定だ。「フルMOX」と呼ばれ、商業用軽水炉では世界初。出力138万3000キロワットは国内最大となる。そして、国策・核燃料サイクルの一翼を担う。

 MOX燃料を軽水炉で使った場合、ウラン燃料に比べて制御棒の利きが悪くなる。また、使用済みのMOX燃料は発熱量や放射線量が高く、高レベル放射性廃棄物も大量に出る。処理方法も決まっておらず、プルトニウム自体の毒性も強い。

 10年7月には、大間町の対岸18キロにある北海道函館市の住民が原子炉設置許可取り消しを求めて提訴した。訴状で住民は訴える。「実験炉−実証炉などの段階を踏まず、即商業炉でフルMOXを実施するのは技術的に拙速で重大な危険性がある」

 そして、この「初めて」づくしの原発を担うJパワーにとって、原発保有は初めてだ。

(2)
 大間原発の歴史は76年4月、町商工会が町議会に原発の立地調査を請願したことから始まる。当時はマグロの不漁期だった。「経済的な不安が背景にあった」と、当時から反対運動を続けてきた同町の元郵便局員、奥本征雄さん(66)は言う。

 だが、マグロは戻ってきた。奥本さんは、無念そうに話す。「今のように取れていれば、原発の誘致はなかった」





毎日新聞 2012年1月28日 東京朝刊
この国と原発:第4部・抜け出せない構図/6止(その2止) 「国策」の大間建設
 <1面からつづく>
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120128ddm003040137000c.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120128ddm003040137000c2.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120128ddm003040137000c3.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20120128ddm003040137000c4.html

<1面からつづく>

(1)
 ◇「ふげん」の後釜…補助金300億円投入

 大間原発の工事は東日本大震災以降、進捗(しんちょく)率37・6%のまま中断している。昨年12月27日の記者会見で再開について問われた枝野幸男経済産業相は「国には権限がない。事業者(Jパワー=電源開発)として最終的に判断されると思う」と述べた。
 だが実際は大間原発の建設は国の強い関与の下に進んできた。源流は旧動力炉・核燃料開発事業団(動燃)が建設した新型転換原型炉(ATR)「ふげん」(福井県敦賀市廃炉作業中)にある。「ふげん」は使用済み核燃料から回収したプルトニウムなどの再利用が主目的で、79年に本格運転を始めた。高速増殖炉が実用化されるまでのつなぎとして期待されていた。国の原子力委員会は82年、ATR実用化に向けて、Jパワーを事業主体として60万6000キロワットの「実証炉」建設を決定。翌年には青森県大間町を予定地とし、発電した電気は電力9社が買い取る約束だった。
 ところが95年7月、電気事業連合会が国とJパワーに、ATR実証炉を断念しフルMOX軽水炉に変更するよう申し入れる。発電コストが軽水炉の3倍との試算が理由だった。「高い電気は買えない。国のいいなりだった9電力が初めて『NO』を突きつけた」。コスト計算にかかわった東京電力元役員は話す。

(2)
 Jパワーの杉山和男社長(当時)=元通産事務次官=は田中真紀子科学技術庁長官(同)を訪ねてフルMOX軽水炉への転換を要請した。「真っ先に地元の反応を心配した。中止など考えられなかった」(Jパワー元役員)。電力会社の抵抗で原発保有できなかったJパワーにとっても、建設は悲願だった。
 結局、原子力委も追認。電力業界の希望通り、大間原発が造られることになった。大間原発の総工費は4700億円。商業炉といいながら、うち296億3000万円は研究開発費名目で国の補助金がつぎ込まれている。
 ◇「自立できぬ町に」 推進派町議も悔恨の念


商業用軽水炉では世界初の「フルMOX」となる大間原発東日本大震災以降、建設工事は止まっている=11年12月27日、袴田貴行撮影
 建設決定から30年、原発への疑問の声は大間町からほとんど消えていた。だが、福島第1原発事故で住民の空気は微妙に変わった。
 反対運動を続けてきた奥本征雄さんは昨年11月、町内で25年ぶりに学習会を開いた。漁師の奥さんから「何か動いて」と電話があったからだ。福島県双葉地区原発反対同盟の石丸小四郎代表に、子供や妊婦を放射能から守る方法を講義してもらった。集まったのは12人だが、皆熱心だった。5人は30〜40代の女性。漁師も5人いた。
 「一緒には動けないけど、何かあったら教えてけろ」。そんな声も寄せられるようになった。ただ、「みんな親兄弟、身内がどっかで原発と関わっているので、目立って動けない」と奥本さんは言う。小さな町の中にも「脱原発」を阻む構造がある。

(3)
 原発推進派の町議も「議会の中にも反対の声はある。ただ、全員が推進派という立場上、愚痴をこぼすだけ」と明かす。そしてこう嘆いた。「町職員給与の2〜3割は(電源3法)交付金。Jパワーからの借金もある。自立できない町になってしまった。政策を間違えた」

 ◇核燃サイクル、矛盾の象徴 プルトニウム大量保有…処理先見えず
 10年末時点のプルトニウム保有量が約45トンに上る日本。核兵器に転用可能なプルトニウムの大量保有は国際的な疑念を招きかねず、大間原発には各原発の使用済み核燃料から出るプルトニウムを消費することが期待されている。だがそれは、核燃料サイクル実現のめどが立たないのに、使用済み核燃料の再処理を続けてきた政策の矛盾の象徴でもある。
 そもそも、炉心全てにMOX燃料を使うことは、フランスの研究炉で実験が行われた例があるだけ。MOX燃料は、ウラン燃料より原子炉を停止する際の余裕が低下する傾向がある。このため、原子炉の製造を担当する日立GEニュークリア・エナジーによると、緊急時に原子炉内の圧力を下げる安全弁の容量を総計5%増やし、高性能の制御棒を開発するなど、既存の改良型沸騰水型軽水炉に新たな改良を加えたという。
 同社は「試験などをして規格を満たさなければ使えず、それなりに開発費はかかる」と説明する。

(4)
 実は、炉心の一部にMOX燃料を使うプルサーマルですら、多くの国が撤退した。今も積極的に続けているのはフランスと日本くらいだ。
 小林圭二・元京都大原子炉実験所講師は「プルサーマルに資源的なメリットはほとんどない」と話す。
 さらに、使用済みMOX燃料は、再処理に使用する硝酸に溶けにくい成分が多い。処理にはコストがかさみ、実用的な処理法は開発されていない。
 プルトニウムを埋め立てる直接処分が国内で実現する可能性はほぼゼロで、フルMOXを始めなければ、プルトニウム消費は進まない。一方で始めれば、処理のめどが立たない使用済みMOX燃料が増えていく。注目される「もんじゅ」の存廃議論の裏側で、国策・核燃料サイクルは深刻な袋小路に入り込んでいる。=おわり
    ◇
 この連載は日下部聡、青島顕、北村和巳、袴田貴行、池田知広、永山悦子、西川拓、江口一、関東晋慈、久野華代、青木純、念佛明奈、野原大輔が担当しました。
毎日新聞 2012年1月28日 東京朝刊

30948712874328

この国と原発:第3部・過小評価体質 安全審査、機能せず
毎日新聞 2011年10月28日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c2.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c3.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c4.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c5.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c6.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c7.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c8.html
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20111028ddm010040151000c9.html

(1)
 世界の地震の2割が集中する「地震大国」でありながら、54基もの商業用原発が建ち並ぶこの国。原発は安全性に十分配慮して建設され、しかも国が厳重に審査しているとされてきたが、東京電力福島第1原発事故で「安全神話」は完全に地に落ちた。原発の安全審査はどのように進められ、なぜ大地震の恐れがある地域でも建設が認められてきたのか。国の審査の仕組みや問題点をまとめた。
 ◇候補地 立地審査前に決定

 ひとたび大事故を起こせば、取り返しのつかない深刻な被害を招くのに、福島第1原発が建設されたのは10メートルを超える巨大津波が襲う場所だった。中部電力浜岡原発は、マグニチュード(M)8クラスの東海地震の想定震源域の真上にある。四国電力伊方原発の近くにも、M8クラスの巨大地震が懸念される中央構造線断層帯が走る。原発はなぜ、大地震津波など危険な災害に見舞われるような場所に建設されてきたのか。

 国の原子炉立地審査指針は立地条件として、「大きな事故の誘因となるような(地震津波などの)事象が過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと」と定める。日本に大地震の恐れがない場所などなく、素直に読めば指針を満たす立地地点を探すことは困難を極めるはずだ。


(2)
ところが、原発の建設候補地は、立地審査指針に基づく審査より前に決まる仕組みになっている。既存原発の場合、電力会社が候補地に挙げ、地元が建設に同意すると、国の電源開発調整審議会で審議。了承されれば国の電源開発基本計画に盛り込まれ、国策として建設が進められてきた。

 立地審査指針に基づく審査が行われるのはその後で、建設決定が覆された例はない。運転開始後に活断層が想定以上の長さだったことが判明するなど、自然災害に関する新事実が分かった場合でも、運転が中止された例はない。

 海外では、米国カリフォルニア州フンボルトベイ原発のように、直下に活断層が見つかって運転が中止された原発がある。

 地震学が専門の石橋克彦・神戸大名誉教授は「プレートテクトニクスなど、地震の基本すらきちんと分かっていなかった時代から原発を建設してきた。大地震が起こる危険性があるような場所には造ってはいけないはずだ。立地審査指針が形骸化していると言われても仕方がない」と批判する。
「原発で想定する地震動と津波高」の表を大きな画像で見る
原発で想定する地震動と津波高」の表を大きな画像で見る
 ◇過酷事故対策 義務化遅れ

(3)
 原発は事故の危険性を最小限に抑えるため、「多重防護」の考え方で設計している、とされてきた。十分に余裕を持たせた設計で事故につながる異常の発生を防ぎ、万一発生しても「止める」「冷やす」「閉じ込める」ことで、放射性物質の放出による被害を防ぐとの考え方だ。国は安全審査で、この考え方に沿って原発が設計されているかを確認してきたはずなのに、なぜ事故を防げなかったのか。

 安全審査は国が示した約70種類の指針類に基づいて実施される。指針は主に(1)立地(2)設計(3)安全評価(4)線量目標値−−に分類され、特に(2)に含まれる「安全設計審査指針」が原発施設の基本設計についてまとめており、安全審査の中核を担う。同指針は、原子炉圧力容器や格納容器、燃料を冷やす冷却系などで守るべき基準を59項目にわたって示している。国の審査で指針を満たしていると判断されれば、安全性は確保されているとして、基本設計が許可される。

(4)
だが、同指針は77年に決定されて以降、3回の小規模な改定が行われただけで、ほとんど見直されてこなかった。例えば、同指針は短時間の電源喪失対策しか要求しておらず、長期間の電源喪失は考慮する必要がないとしていた。原発停止後については、「崩壊熱」を出し続ける核燃料を冷却することが重要で、指針は外部電源が失われても冷却機能が働くよう求めている。だが、福島第1原発では津波で冷却用の海水を取り入れるポンプが壊れ、十分な冷却ができない状態に陥った。

 では、福島第1原発事故のように、メルトダウン炉心溶融)などのシビアアクシデント(過酷事故)が発生した場合、その拡大を防ぐ手立てはどうだったのか。79年の米スリーマイル島原発事故や86年の旧ソ連チェルノブイリ事故を受け、過酷事故対策が世界各国で進んだ。日本でも原子力安全委が92年5月、シビアアクシデントの拡大防止や影響を緩和する対策を定めたアクシデントマネジメントの整備を勧告。国は同年7月、電力各社に整備を要請した。だが国は、現行の安全対策で原発の安全性は十分確保できるとして、整備を電力会社に義務づけず、自主努力で行うよう求めるにとどめた。

(5)
 これを受け電力会社は(1)原子炉の停止機能(2)原子炉圧力容器や格納容器への注水機能(3)格納容器からの除熱機能(4)電源供給機能−−の強化に取り組んだ。例えば、原子炉圧力容器に注水する機能が全て失われても、消防ポンプで炉心に注水できるようにした。同じ原発敷地内に複数の号機がある場合は、電力を融通できるよう配線をつなぐなどした。しかし、福島第1原発事故の被害拡大を防ぐことはできなかった。原子力安全委は事故を受け、ようやくアクシデントマネジメントの義務化を決定。指針改定の検討を始めた。
 地震想定 見直し進まず

 各地の原発では東日本大震災が起きる前から、「想定外」の揺れを記録する地震が相次いでいた。電力会社は「重要な機器に影響はない」と釈明する一方で、そのつど想定を引き上げるなど後手後手の対応に終始し、経済産業省原子力安全・保安院も追認してきた。

 女川原発では05年8月に宮城県沖で発生したM7・2の地震で、原発直下の岩盤の揺れの強さが「設計用限界地震動」を上回った。設計用限界地震は旧耐震指針に基づいて設計時に想定する「およそ現実的でない」とされる大地震で、限界地震動を超えた初めての事例だった。

(6)
 耐震指針改定後の07年3月に発生した能登半島地震(M6・9)では、志賀原発2号機でも揺れが限界地震動の2倍近くに達した。その約4カ月後に発生した新潟県中越沖地震でも、柏崎刈羽原発の7基全てで、旧耐震指針下で想定した限界地震動を超えた。直下の岩盤では最大1699ガル(ガルは加速度)に達し、想定の約3・8倍となった。

 そして東日本大震災では、事故を起こした福島第1原発のほか、女川原発と東海第2原発で、新指針に基づいて想定した最大の揺れを初めて上回る事態となった。女川原発では3月11日の本震(M9・0)だけでなく、宮城県沖を震源とする4月の余震(M7・1)でも揺れが想定を超えた。今や新指針すら妥当性が揺らいでいるが、地震の想定手法の見直しについての具体的議論は始まっていない。
 ◇耐震 大半は新指針未対応

 原発の耐震性は、原子力安全委員会の耐震設計審査指針(耐震指針)に基づいて審査される。耐震指針は06年に改定されたが、既存の商業用原発54基の多くは78年制定の旧耐震指針下で建設が認められており、福島第1原発のように耐震指針のない時代に認可された原発もある。このため経済産業省原子力安全・保安院は電力各社に対し、既存全原発に新指針に基づく安全性再評価(耐震バックチェック)を指示し、現在も継続中だ。

(7)
新指針は耐震設計で考慮すべき活断層について、従来は過去5万年間に活動した断層としていたのを、過去12万〜13万年間に活動した断層まで広げた。新たに古文書や地下構造の再調査が必要になったことに加え、地形の特徴から隠れた活断層を推定する「変動地形学」の手法を取り入れることも求めた。

 さらに、それらの方法で特定した活断層が動くと地震波がどう伝わり、原発でどんな揺れになるかをコンピューターで再現。原子炉格納容器など機器が壊れないかや、原子炉を安全に止められるかなどを確認する。

 また、活断層を見つけ損ねた場合に備え、従来はマグニチュード(M)6・5の地震原発直下で発生しても耐えられる設計を求めていたが、新指針ではM6・8程度に引き上げた。ただ、08年の岩手・宮城内陸地震(M7・2)などは活断層が事前に確認されていない場所で起きており、「新指針でも想定が過小だ」との指摘も出ている。

 指針改定を受け、電力各社は各原発で想定する揺れの大きさを軒並み引き上げた。周辺の活断層の長さについても、従来より長く見直す例が相次いだ。浜岡原発では大規模な耐震補強が必要となり、中部電力はコストが大幅に増加する可能性が高まったことなどを理由に、1、2号機の廃炉を決めた。

(8)
 ただ、耐震バックチェックは遅れている。電力各社が保安院に提出した評価結果は、地震学や工学の専門家を集めた作業部会の意見を参考に審査。指針改定から5年たつのに、保安院による最終評価が終わったのは柏崎刈羽原発1号機と5〜7号機の計4基のみだ。

 保安院の深野弘行院長は「(審査に)時間がかかりすぎという面で反省している」と保安院の責任を認め、福島第1原発事故以来止まっているバックチェックの審査を早期に再開する考えを示している。

 また、福島の事故後に「ストレステスト」と呼ばれる新たな安全評価が再稼働の条件として加わった。想定を超えた地震の揺れで機器類はどうなるか、どこまで余裕があり、どの程度の揺れで壊れて深刻な事故に至るのかなどをコンピューター上で検証する。だが、再稼働に必要な結果の基準はいまだ示されていない。
 ◇立地申請から運転まで20年

 原発の建設から運転開始までの手続きは、原子炉等規制法、環境影響評価法電気事業法などに基づいて進められる。地元との話し合いを経て原発の建設候補地を選んだ電力事業者にはまず、環境アセスメント実施が義務づけられている。事業者は原発建設が大気、土壌、水質など環境に与える影響を調べ、容認できるレベルかどうかを予測・評価。まとまった評価は、経済産業相が住民らの声を聴く公開ヒアリングなどを参考に審査する。

(9)
 評価結果が妥当と判断されれば、事業者は経産省資源エネルギー庁に対し、建設候補地を「重要電源開発地点」に指定するよう申請する。認められると正式に原発建設用地に決まり、建設準備が始まる。

 続いて事業者は、経産相に原子炉設置許可申請を提出する。国は安全審査に入り、耐震性、炉心や燃料の設計、立地条件などが安全確保の条件を満たすかをチェックする。

 これらの審査は経産省原子力安全・保安院が担当し、原子力委員会原子力安全委のダブルチェックを受ける。原子力安全委は公開ヒアリングも開く。安全性が確認されると、文部科学相の同意を得て経産相が原子炉設置許可を出す。

 その後、事業者が提出する発電所の詳細な工事計画を経産相が認可すると着工。完工後の使用前検査に合格すれば、営業運転が始まる。原発の新規立地に要する年数は長期化しており、80年代以降は立地申し入れから運転開始まで20年近くかかっているのが現状だ。

==============

 この特集は、永山悦子、河内敏康、八田浩輔、岡田英が担当しました。(グラフィック松本隆之、編集・レイアウト鎌田将伴)

23985098451287

ニューズウイーク日本語版
イタリア
貧乏人がフェラーリを乗り回す泥棒天国
In Italy, the Poor Drive Ferraris
自家用機を所有する「なんちゃって貧困層」の脱税をいくら摘発しても、国の巨額債務の前では焼け石に水
2012年01月13日(金)15時18分
エリック・ライマン
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2012/01/post-2399.php
富の象徴 イタリア人は申告所得200万円程度でフェラーリを乗り回す(写真はドバイ) Reuters
 イタリアのマリオ・モンティ首相は昨年11月の就任以来、こう語ってきた。巨額の債務を削減していくには、国民全体が平等に痛みを伴う必要があると。
 このもっともらしい政策は大して注目されなかった。だが今月に入り、モンティが攻撃の矛先を脱税がはびこる超富裕層に向けると、話は変わった。
 超富裕層はターゲットにしやすい。イタリアの新聞によれば、年間所得が2万ユーロ(約200万円)未満の人々が、合計で18万8000台ものスーパーカーを所有している。フェラーリランボルギーニ、ポルシェやBMWといった超高級車だ。プライベート・ジェットやヘリコプターは518機、ヨットは約4万2000台所有しているという。
 またイタリアでは昨年、1500万人(国民の約4分の1)が課税所得なしと申告したが、彼らの5分の1は家を少なくとも3件所有しているとの報告もある。
 
 モンティの指示を受け、国税局は富裕層のリゾート地を急襲し、脱税の証拠を押さえ始めた。ドロミテのスキーリゾートでは、42台のスーパーカーを発見。1台平均20万ユーロ相当の超高級車だが、所有者は年収2万ユーロ未満で暮らしていると主張する人たちだ。イタリアの新聞はこうした層を「見せ掛けの貧乏人」と呼んでいる。
 政府は脱税の摘発を続ける方針だが、既にモンティ政権への反感は高まっている。超富裕層はメディアへの露出を利用して、自分たちは不当に攻撃の対象になっているとアピール。さらに脱税容疑で起訴されたメディア王、シルビオベルルスコーニ前首相に近い議員たちは、モンティの財政改革にへの支持を取り下げると脅している。
検問で応酬される現金や金も増加
 政府の取り締まりが厳しすぎると感じている人も多い。国税局は国境の主要検問所に、紙幣のにおいを嗅ぎつける警察犬を配備。監視カメラも設置して、紙幣を大量に積んだ不審な車両の往来がないか見張っている。
 さすがに少しは効果も出ているようだ。12月の税収は前年同月より2%近く上昇した。国境警察によれば、金13トンを積んでスイスへ渡ろうとしたトラックを摘発したり、平均すると1日に現金4万1000ユーロを押収しているという。1年前には見られなかった光景だ。
 ただし、これは取り締まり強化のおかげとも言い切れない。単に富裕層がより多額の資金を国外へ持ち出すようになっただけという話なら、イタリア経済には大打撃だ。
 さらに言えば、税収が多少増えたぐらいでは、イタリアが抱える巨額債務はびくともしない。国の借金は雪だるま式に増えており、借り入れコストも高い。改革が始まってから数週間たっても、10年物国債の利回りはデフォルト(債務不履行)水準と言われる7%を超えている。昨年財政破綻した頃のギリシャアイルランドポルトガルと同じレベルだ。イタリア政府は7%でも返済可能としているが、エコノミストたちは長期的に見て無理だと警告している。
(GlobalPost.com特約)ニューズウイーク日本語版

19857437238740

ニューズウイーク日本語版
ウィキペディアと米議会の仁義なき戦い
SOPA Blackout
海賊行為防止法に反対するウィキペディアなどのサイトは、自らの利害のために事実をねじ曲げているとの批判も
2012年01月19日(木)15時15分
マリヤ・カリムジー
http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2012/01/post-2406.php
サービス停止 ウィキペディアが使えなくなってみるとどれだけ依存していたかがわかる Wikipediaより
 オンライン百科事典ウィキペディアが18日、現在米議会で議論されているオンライン海賊行為防止法(SОPA)に抗議するためにサービスを一時中断した。同様に何千ものサイトがサービスを一時的に中止している。
 ブログソフトのWordPress、ソーシャルニュースサイトのReddit、ブラウザFirefoxを開発するモジラ財団、ツイッター関連サービスを提供するTwitpicも、SOPAと上院で議論されている同様の法案、知的財産保護法(PIPA)への関心を高める目的でサイトを封鎖した。
 英BBCによれば、全米映画協会(MPAA)はサイトの中断を「無責任」で「ばかげた行為」だと主張している。
 しかし米CBSニュースによれば、サイトを中断するサイトやネット企業は、SOPAとPIPAの規制に従えば、新興企業が違反行為への対策にかかる費用をねん出できないだろうと考えている。
「この法案の立案者はインターネットがどう機能しているのか本当に理解しているようには思えない」と、WordPressの共同設立者であるマット・マレンウェッグはBBCに語っている。
 MPAAのCEOで会長のクリス・ドッド元上院議員は、サービス中断は「巧妙な戦略」であるとの声明を発表した。
「情報への入口の役割をするプラットフォームが、企業の利害を推進するためにユーザーを煽り立てようと事実を意図的にねじ曲げることは、危険で厄介な動きだ」とドッドは言う。
 米政府は先週末に法案の修正を望む意向を発表し、両法案の立案者たちは問題ある記述のほとんどを排除することに決めた。上院では24日に投票が行われる。
一部の大学生は、ウィキペディアがないと大学の課題ができないと早くも音を上げている。

(GlobalPost.com特約)ニューズウイーク日本語版

02874671984763

ニューズウイーク日本語版
フェースブックがあなたの人生をぶち壊す
10 Ways Facebook Can Ruin Your Life
借金取りに追われ、就職できず、鬱になりやすい?──ユーザー5億人を突破した世界最大のSNSに潜む10の落とし穴
2010年07月22日(木)17時27分
ケート・デイリー
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2010/07/post-1473.php
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2010/07/post-1473.php?page=2
<A>
 7月21日、フェースブックの登録者数が5億人を突破した。この節目は重要だが、無意味でもある。世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の巨大さを世界に思い起こさせるニュースではあるが、そもそもそんなことを思い出す必要はないのだから。
 フェースブックが多くのアメリカ人の日常生活の一部になっているのは間違いないが、日常生活にどんな影響を及ぼしているかはまだ未知数。もちろん、健康を増進したり、人付き合いから写真の共有まで生活のあらゆる側面を便利にしてくれることはわかっている。
 だが、その一方でユーザーの個人情報がフェースブックの提携企業に流出しているという疑惑をはじめ、さまざまな負の側面もある。フェースブックが私たちの生活にもたらしかねない10の弊害を挙げた。
1)生みの親が見つかる
 いいニュースの場合もあるが、そうでないこともある。プリンス・サガラは元夫が10年以上前に連れ去った子供たちをフェースブックで見つけた。サガラは子供たちに連絡を取り、親権を手に入れたが、父親に育てられた子供たちは彼女との関わりを拒んでいる。
 15歳になった息子をフェースブックで発見した女が、我が子を性的に虐待し、懲役9〜30年の判決を受けたというひどい話もある。
 
2)債権者に監視される
 債権者はフェースブックを使って借り主の動向をウォッチしつつ、担保に取れそうな資産がないか目を光らせている。彼らはまずフェースブックを読み込んで、あなたにカネを貸して大丈夫か判断する。返済が滞ると、あなたの書き込みをモニタリングし、資産がないかチェックできる。
3)保険会社に支払いを拒まれる
 鬱病を患い、労災補償を受けていた女性が、フェースブックに笑顔の写真を投稿したために保険金の支払いを中断された。写真から判断して、職場に復帰できる状態だというのが保険会社の言い分。今では多くの弁護士が、フェースブックに情報を公開しすぎないようアドバイスしている。
4)離婚の際に不利になる
 離婚弁護士にとってフェースブックは非常に便利なツールだ。クライアントの配偶者のページをチェックして、不倫や嘘の証拠を見つける(離婚申し立ての5件に1件で、フェースブックが証拠として提出されているという報告もある)。子供と一緒に過ごす代わりに、フェースブック上のバーチャル農場ゲーム「ファームビル」で遊んでいたことを元夫に知られてしまい、親権を失った女性もいるという。
5)鬱になりやすい
 ストニーブルック大学(ニューヨーク州)の研究者らがティーンネイジャーの少女を調べたところ、一日の大半を友人との人生相談に費やしている少女のほうが鬱になりやすい傾向があることがわかった。他人のゴシップや自分の悩みについて考えすぎると、気分が落ち込むのだろう。SNSのユーザーは友人と常につながっており、不健康なおしゃべりに没頭しやすいと、研究者は示唆している。
6)就職できない
 イギリスのある調査では、アンケートに回答した企業経営者の半数が、就職希望者の未熟な面をフェースブック上で発見した場合、採用を見合わせると回答した(酒におぼれたエピソードや不法行為の写真、文法の間違いなど)。
7)家族に秘密がばれる
 口の軽い友人があなたの秘密をコメント欄に書き込んでしまうかもしれない。また、マサチューセッツ工科大学の学生が開発したアルゴリズムを使うと、同性愛者の友人の数を分析することで、どのフェースブックユーザーが同性愛者かを見分けられるという。
<B>
8)ストーカーや虐待者に自分の状況が伝わりやすい
 正直に言おう。フェースブックがなかったとしても、あなたに暴力を振るうパートナーは別の理由を見つけて怒りを爆発させるだろう。だがフェースブックがあるために、関係を断ち切った後も監視されやすくなったのは確かだ。
 例えば、夫から逃げ出した女性が、フェースブックのステータスを「パートナーなし」に切り替えたために殺害されるという事件があった。プロフィールを見た夫が妻の自宅に押し入って刺殺したのだ。
9)名誉毀損で訴えられる
 フェースブックの書き込みをめぐる名誉毀損訴訟は数多い。アメリカよりも名誉毀損が認められやすいイギリスでは、中傷に満ちた偽のプロフィールをでっち上げた元クラスメートから、2万2000ポンドの慰謝料を勝ち取ったビジネスマンがいた。
 米ミシガン州のレッカーサービス企業は、同社が駐車違反をしていない車をレッカー移動させていたという偽の書き込みをした学生を訴えた。今のところ、実際に名誉毀損が認定されるケースは少ないようだが、気になる話ではある。
10)子供が誘拐される
 イギリスでティーンエイジャーの少女が、フェースブック上で同世代のふりをしていた性犯罪者の男に殺害される事件が発生。フェースブックのイギリス版は「パニックボタン」の機能を追加し、ネット上のいじめなどの迷惑行為を当局に直接通報できるようにした。だが、イギリス以外の国のフェースブックでは、そうした機能はまだ用意されていない。ニューズウイーク日本語版